Our Story
mui Labは、人とテクノロジーの新しい関係性を考えるスタートアップです。老子の謂う無為自然からインスピレーションを得て、「作為的ではなく無為自然に佇む姿勢」と解釈し、人間の暮らしの中において、無為に存在するテクノロジーの存在、ひいては人間が自然と共生する暮らしのあり方を助長するテクノロジーの存在を希求し、プロダクトデザインやサービスを通じて世の中へ提言しています。
私たちは、京都・御所南の400年ほどの歴史を持つ家具の通り、夷川通にオフィスを構えています。現代版のものづくり職人とも言えるエンジニアやデザイナーなどのテックアルチザン達は、日々京都に伝わる伝統の暮らしに触れながら様々な気づきを得られるという、最高の環境に身を置いています。
オフィスは、うなぎの寝床と言われる町屋式の奥に長い空間で、京都らしい建築設計です。
京都には、日本間を仕切る障子や、家の外郭にあしらえる格子、おもてなしの空間としての茶室、余白を表現する床の間など、伝統的な「佇まい」を持つ空間が多く残っています。こういった空間は、mui Labの重要視する「佇まい」を具現化したアプローチでもあります。「佇まい」へのアプローチは、「カーム・テクノロジーの基本原則」に非常に近いものを持ちながらも、より日本の伝統文化が色濃く反映されたものとなっています。
「佇まい」は、人のみならず、空間に置かれるモノ、またそのモノと関わる人の姿や関わる場所、さらにはその場所の周辺環境、関わる人から醸し出される気配など、関わりの周辺を拡大して考えることができます。
私たち人間は、主に建築空間の中で生活をしていますが、日本人は、気候や方角などを目安に家具のレイアウトを決めたり、屋外の様子を周辺視野で窺い知れるように居場所を整えたりします。また、外界とのつながりが強い日本の住宅では、より住環境の中に外の情報が「気配」として埋め込まれるようデザインされているのではないでしょうか。
代表的な例として障子があります。外界と屋内のフィルターとして働き、人の細かな動きをぼかすことで物事に集中することができます。それでいて、外の様子を知りたい時や急な天候の変化の際にはすぐに気づくことができます。障子に落ちた庭技の影の動きから風を感じたり、ふっと暗くなったところから太陽の光が陰り曇ってきたことを感じたりすることがあるでしょう。これは、「カーム・テクノロジーの基本原則」の8原則すべてを満たしているとも言える好例です。
また、止め石(関守石)も、情報提示の仕方としては面白い例でしょう。止め石とは、日本庭園などで立ち入り禁止や岐路での正しい進路を示すために使われる、丸い石に棕櫚縄をかけたモノです。拳程度の小さな石なので、立て看板のように目立つ物とは異なり、庭園の景観を害しません。それでいて、「こちらには進まないでくださいね」という情報を伝えたい相手である歩行者は、すぐに気づくことができます。止め石を超えて進んでいくことも物理的には可能ですが、その静かな佇まいと止め石がまとう緊張感から、穏やかに行動を促します。
モノがデバイス化されていくことによって、テクノロジーと人の関わりが日常風景になりつつある現在においては、パソコンやスマートフォンなどの画面内やボイスエージェントとの一対一のやり取りでのインタラクション設計にのみ注意を置くのではなく、このように周辺環境(モノの置かれている空間、人がそこにいることの背景、その環境で人々が取り得る所作など)を考慮し、インタラクションをデザインすることが、空気を読むこと、間合いを読むことなど、「佇まい」に気を使ってきた日本らしい観点だと考えています。
「一人一台のデバイス」の時代から、「デバイスに共有される時代」に知らず知らずのうちに突入し、今や一人が三台以上のデバイスに囲まれている時代となりましたが、多くのプロダクトやサービスがユーザーにとって真のウェルビーイングが担保されたものにはなり得ていません。コンピューティングをユーザーにとって最適なものにし、人々の幸福感や充足感へつなげるために、今改めて「カーム・テクノロジー」という設計指針が必要なのではないかと考えます。
*BNN出版「 カーム・テクノロジー(生活に溶け込む情報技術のデザイン)」(mui Lab監修・寄稿)
日本語版特別寄稿「佇まい」のデザインより一部抜粋